不安のア・ラ・カルト ―現代社会を生きぬく知性― | |||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||
ISBN-4-8167-0661-5 C0036 |
はじめに 戦争、テロ、リストラ、年金問題、少年犯罪、企業不正……、これらの顕在化する現代は、まさに「不安の時代」と呼ばれるにふさわしい時代です。表題に「不安」をうたう新刊書が目立つのも、そのような時代背景の現れなのかもしれません。その中にあって、本書の特徴は、まったく異なる複数の学問領域から「不安」にアプローチしている点にあります。「不安のア・ラ・カルト」を標榜する所以です。 「不安」が、時間と空間および民族の制約を超えて、人間であれば誰にでもかかわりがあるものである限り、それは人間の存在そのものに根源的に関係しているに違いありません。「不安」は人間存在の根本的な構造とどのようにかかわっているのでしょうか。このような問いは「不安」の哲学的な分析へと導きます。ものごとの本質や根元を見極めたい方には、第一章の哲学のアプローチをおすすめします。 具体的な人間の姿をそのまま描いてみせる点で文芸にまさるものはありません。一九八〇年代後半にベストセラーとなった村上春樹『ノルウェイの森』を取り上げて、そこに醸し出される「不安」の描写を作品論として展開します。哲学的な議論では具体的な不安のあり方を目の当たりにすることができないと思われる方、抽象的議論になじめない方には、第二章の文学のアプローチをおすすめします。 「不安」を心理現象ととらえる見方は、むしろ通常の一般的な見方かもしれません。心理学ではこれをどのようにとらえているのでしょうか。いくつかの立場を網羅しながら、「不安」の規定、発生のメカニズム、測定の方法などを整理します。直接には目に見えない人間の心に興味のある方、科学的な方法に信頼を寄せられる方には、第三章の心理学のアプローチをおすすめします。 「不安」は現実的な問題です。時代のあり方が、それを担う人々の成長過程を反映するものであるとすれば、「不安の時代」の出現は教育の問題と切り離すことができないでしょう。現代の教育改革はいったいどこへ進んでいるのでしょうか。修正を余儀なくされつつある「ゆとり教育」など、教育改革の方向を示唆します。教育現場で活躍されている方、子どもの教育を心配されている方には、第四章の教育学のアプローチをおすすめします。 会社の雇用、年金の受給、増税の予兆、これらはまさに私たちの日々の生活に直結する問題です。政府が進める「構造改革」によって、これまでの日本社会はどのような社会に変わろうとしているのでしょうか。「構造改革」による社会の変質を説明します。生活者の立場を堅持される方には、第五章の経済学のアプローチをおすすめします。 以上の五つのアプローチは、それらをすべて通して、あるいは興味と関心に応じていくつかを組み合わせて、お読みいただくことによって、現代の「不安」を多角的、重層的にとらえられるように配慮されています。不安を乗り越えたい方、不安とうまく付き合いたい方、さらには自分の生き方を模索している方にも、本書をおすすめいたします。 なお、本書の出版には、下関市立大学後援会平成十七年度活性化援助事業の学術図書発行援助金の交付を受けています。また、出版の機会を与えていただいた西日本新聞社の安武信吾氏に厚くお礼を申し上げます。 二〇〇五年十一月 西田 雅弘
|
目 次
|
|
はじめに 1
|
|
第一章 「不安」と哲学的人間観
|
西田 雅弘 …… 5 |
第二章 村上春樹に見る「不安」の影
―『ノルウェイの森』をめぐって― |
上倉 一男 …… 31 |
第三章 心理学的観点から見た「不安」
|
横山 博司 …… 67 |
第四章 現代の教育改革と「不安」
|
衛藤 吉則 …… 91 |
第五章 「構造改革」不況と不安の時代
―一九九〇年代以降の新しい不安を中心に― |
関野 秀明 …… 121 |
おわりに 153
|
執筆者プロフィール
|
■西田 雅弘 (にしだ まさひろ)
1955年、広島県生まれ 下関市立大学教授 専攻:倫理学 |
■上倉 一男 (うえくら かずお)
1956年、広島県生まれ 下関市立大学助教授 専攻:文学 |
■横山 博司 (よこやま ひろし)
1953年、福岡県生まれ 下関市立大学教授 専攻:心理学 |
■衛藤 吉則 (えとう よしのり)
1961年、福岡県生まれ 下関市立大学助教授 専攻:教育学 |
■関野 秀明 (せきの ひであき)
1969年、京都府生まれ 下関市立大学講師 専攻:経済学 |
公開講座はこちら