かつて火山だった島根県の三瓶山。周辺に点在する温泉の1つが千原温泉。山奥にポツンと一軒の湯治場があります。先代までは宿泊の湯治客限定だったこともあって知名度はありませんが、足元湧出の泉質は本物志向を唸らせます。とりわけ力強く身体を伝う炭酸の気泡は圧巻。温泉の本質に触れる思いがします。
 
 
    
 
 
 今回は三瓶からの山越えルート。山道を下っていくと、眼下にこの地方特有の赤い石州瓦の一軒宿が見えてきます。【画像左】 谷川にかかる橋まで下ったところに「千原温泉湯治場」の標識。ほとんどUターン気味に旋回して上流を目指します。【画像右】 すぐ二階長屋のような木造家屋に到着。温泉らしい特徴は一切なく、普通の田舎の民家のようです。これが千原温泉。道路脇に数台分の駐車スペースがあります。
 
 
    
 
 
 本当に普通の民家です。「受付」と書かれた玄関で声をかけると女将さんが現れました。【画像左】 ここで入浴料500円を払います。中に入るのかと思いきや、温泉の入口は隣り。【画像右】 ガラス引戸の上部に小さく「入口」と書かれています。こちらが千原温泉の入口。まさに民家にお邪魔している感じ。
 
 入口を入ると、いくぶん開放的な脱衣場。もちろん男女は別。衣服を入れる棚もありますが、以前はそれぞれに扉が付いていた模様。蝶番だけが残っていました。のれんをくぐって浴室へ。半地下の浴室まで下り階段が続きます。突き当たりに黄褐色のお湯をたたえた浴槽が見えます。周囲の鄙びた風情がいかにも昔ながらの湯治場という感じ。ほおっ、嬉しくなりますね。
 
 
 
 
 
 
 浴槽の底は板敷きになっていて、その隙間から水面に次々気泡が出ています。身体を伝うこの気泡が意外に力強い。えっ、そんなところにも来るかと、最初のうち少々あわてましたが、慣れるとこれがいい感じ。ややヌルメなのでいくらでも長湯ができます。気泡の攻撃を楽しみながら、しばし至福の体験。「夏場は炭酸ガスが充満して息苦しくなるので、扇風機を回すこと」という注意書きも。
 
 もちろんかけ流し。堆積した析出物が床に美しい模様を描いています。浴槽の右奥に長方形の切り欠きがあり、その中に透明に近いお湯が湧出しています。湯呑みらしきものも置いてあり飲泉用らしい。すくって口に含んだところ、間違っても美味しいと言える味ではありません。苦くて渋くて塩辛い複雑な味。個性のはっきりした温泉である証拠。
 
 
    
 
 
 
 
 浴槽から入口の階段を振り返るとカーテンで仕切られた一角。中に一人用の五右衛門風呂があります。いわゆる上がり湯です。温泉の温度がそんなに高くないので、上がり際にこの五右衛門風呂で温まってくださいという趣向。これは男女共同。「女性が安心して入れるよう声をかけてください」という大らかな張り紙も。五右衛門風呂を加熱しているときは、薪の煙の香りが浴室に漂い、これまた心豊かな風情を醸し出します。
 
 
    
 
 
 1時間近くも長湯をしました。周辺にも源泉があるらしいので、ちょっと付近を散策。長屋風の連なった建物の一番奥が、先程まで入っていた浴室部分。外から見るとこんな感じ。【画像左】 地面すれすれのガラス窓が半地下の窓。谷川沿いに源泉を見つけました。源泉そのものには鍵が掛かっていましたが、横のパイプからお湯が流れ出ています。こちらは持ち帰り用。ただし、有料。
 
 ご存知郡司勇氏は、この千原温泉に全国でも数件の100点満点の評価。「非の打ち様がない」と絶賛。確かにそうです。温泉の本質がここにあります。
 
 
ええ湯じゃったのお