〔暗闇に白い影―詳細と後日談〕
大学生の娘が夜行バスで帰省し、始発電車で最寄り駅まで帰ってきます。お迎えは、私のいつもの役目。しかし、その日は夜行バスが遅れて30分後の電車に。早朝のこの時間差は大きい。まだ薄暗いにもかかわらず、車と歩行者の数がいつもより多い。暗闇からいきなり歩行者があらわれてヒヤッとする。信号待ちのある大通りを避けて裏路地から駅改札へ。ここまではいつも通りでした。久しぶりに娘に会える……。
路地の出口から駅の改札に行くには、センターラインのある通りを横切らなくていけません。信号がないので左右の車の切れ目を待ってタイミングよく。しかし、その日はこちらに曲がろうとする右折車(A)がウィンカーを点滅させて停車していました。大きなワンボックス車。正面の駅改札方向にも右折車(B)のウィンカーの点滅。右方面からの車が途絶えたにもかかわらず状況は膠着したまま。誰かが動かないと……。
右折車(A)の後方にヘッドライトが見えます。このままだと向こう車線が渋滞するよなあ。最初に動くのは私(P)、と直感的に判断。注意しながら前方に進んで右折車(A)の前を過ぎたところで目の前を白い影が右方向に横切りました。同時に鈍い衝撃音。えっ、何かにぶつかったの? わけがわからないまま右方向に目をやると白い軽のワンボックスの後姿。右折車(A)に隠れて見えなかった直進車(C)でした。
車体の右側面を押される形になった直進車(C)の進行方向が左に振れ、右折車(B)の前を通り過ぎたところで歩道に乗り上げて左前面が電柱の支線に接触。はずみで右方向に横転。まさにドラマのカーアクションシーン。こちらのプジョーは前面に損傷を受けたものの、当面の運転に支障はなさそう。そのまま直進して路肩に退避。リアリティの感じられない映像世界のような奇妙な感覚につつまれながら、横転した車にかけつける。
「大丈夫ですか。大丈夫ですか」。「どうしたの。何があったの」。中にいたのは二十歳前後の若いお嬢さん。さすがに気が動転している様子。とりあえず、助手席側のドアを上方に開けて横転した車から救出。一見したところ、出血や外傷などはなさそう。右折車(B)を運転していたおばさまが彼女に声をかけて寄り添っている。誰かは分からないものの、現場にいた方が即座に救急車と警察へ通報していて、それらの到着を待つ。
この間に相手の方と、住所、連絡先などをお互いに情報交換。保険会社の確認も。まず救急車が到着。ストレッチャーが出てきたものの、これは不要。「搬送先はどちらの病院ですか」と尋ねたところ、「これから探します」とのこと。横転した先方を病院に救急搬送。おっと、自分の娘のことを忘れていました。電車が到着して改札から出てきたところ。「あれ、ぶつかったの?」と意外に冷静。とりあえずタクシーで帰宅させる。
パトカーが到着して事故処理が始まりました。相手の方が救急搬送されたので、当事者は私一人。運転免許証、車検証、自賠責保険証書の提示。住所、勤務先、電話連絡先などの聴取。さらに現場の路上に立って状況の確認。「あっ危ない、と思ってブレーキを踏んだのはどこ?」ん?どこと言われても……。左右の安全確認をして前進したわけで危ないと思う瞬間はなかった……。「ブレーキを踏んで止まったところは?」これも、ん?
路面を見ると冷却水のしたたりが点々と路肩のプジョーまでつながっています。その始まりの地点が衝突地点ということか。ラジエターが壊れているかもしれない。冷却水が抜けると動けなくなるなあ。いつもメンテナンスをお願いする山口トヨペットはすぐ近く。引き取りに来てもらえるのかな。そんなことも気になります。諸々の聴取は済んだものの、横転した車の片付けが終わるまで残ることにして、保険代理店に連絡。
クレーンの付いたカーキャリーが到着。クレーンで吊り上げて横転を元通りに。下側になっていた運転席側面に太くて黒い横線。プジョーのバンパーとの衝突箇所であることは明らか。手際よく後片付けが進んで相手の車はカーキャリーの上。すでに夜も明けて通勤時間帯。人通りと車が多くなってきました。現場が原状回復されたのを見届け、「早朝からご迷惑をおかけして申し訳ありません」と警察の方に挨拶をしてプジョーの車内へ。
冷却水の漏れがポタポタ程度なので、まだ走行可能と判断。至近距離の山口トヨペットまで自力走行して移動。始業前ながらすでに出勤しているサービス担当の方に修理見積りを依頼し、車を残して徒歩で帰宅。途中、歩きながら自宅の奥さまに連絡。「身体は大丈夫。ケガはないよ」。先に帰宅した娘が状況を報告している様子。自宅まであと少しのところで保険会社の物損担当者から電話連絡。対応が迅速だなあ。自宅玄関を入って奥さまの顔を見てやっと一安心。
保険屋さんによると、相手側はセンターラインのある優先道路。過失割合は一般的に9対1。もちろんこちらが9割。そんな話もあり、また、救急搬送された相手方のことが気になるので、その後、情報交換した住所をたよりに相手方の自宅を直接訪問。すでに病院から帰宅して在宅中。「わざわざお越しいただかなくても……」。お詫びに続けてケガの症状を伺うと、「頭にコブができました」。横転にもかかわらず、当面深刻な症状ではなさそう。あとの処理は双方とも保険会社に一任することを確認して帰宅。
事故の翌々日、中国電力の営業所から封書が届く。事前に電話連絡のあった「確認書」。相手の車が電柱の支線に接触したはずみで支線が断線していました。その復旧にかかわる損害賠償を当事者が保証する内容。物損の対象としてすでに保険会社にも連絡済み。署名、捺印して即日返送。さらにその翌日、保険会社から「保険金請求手続きのご案内」が届く。事故の状況などを記入し、あとの処理を正式に保険会社に一任するする書類。しかし、時はすでに12月30日。いま返送しても保険会社は年末年始休業中。これは年が明けてからだな。
プジョーの「魔の12月」はただの思い込みでもなさそうです。連鎖を断ち切れません。毎年、年末には何かあります。今回の場合、安全を十分確認したつもりでも、結果的に自分の不注意であることは明らか。過失割合の正式な提示はまだありませんが、弁明するつもりはありません。当方にケガがなかっただけでもよかったと考えることにしましょうか。暗く沈んだ気持ちとともに、年が暮れていきます……。
