〔『蒸気機関車運転焚火の秘訣』〕
 
 
 和田儀三郎『蒸気機関車運転焚火の秘訣』(交友社、昭和14年)。特別閲覧室で受け取るようにカウンターで言われた。出版年がかなり古いので、一般図書とは別の扱いになっているらしい。出入口に見張番(?!)のいらっしゃる狭い部屋に通された。小ぶりの緑色の装丁で、そう厚くもない。200ページ足らず。
 
 著者による「自序」の一節が印象的。出版の意図に時代背景が色濃くにじむ。
 
 
 今次事変勃発以来、興亜の大業完成の為、多数錬達の士を支那大陸に送り、又輸送力拡充等の為、多数の機関車乗務員の急速養成の必要に迫られ……。
 
 
 「機関車乗務員の急速養成」のためのマニュアルが「焚火の秘訣」であるところにも、蒸気機関車の運転にとって石炭焚きがどれほど重要であるかが伺われる。
 
 内容には、乗務員としての心構えや緊急時の対処法なども含まれているが、何といっても、「第5編 焚火と給水装置取扱」が中核であろう。その第二章の見出しは以下の通り。
 
 
 第5編 焚火と給水装置取扱
 
 第二章 焚火に関する事項
   1.火床整理の方法と注意
   2.火床の厚さ
   3.保火の方法
   4.送風器の取扱方
   5.罐水の適当なる保持量
   6.出発の際に於ける焚火要領
   7.上り勾配の焚火法
   8.運転中に於ける焚火要領
   9.煙の色に依る燃焼状態の判断法
  10.惰行運転に移る場合の火勢の強さ
  11.黒煙防止の要諦
  12.石炭撒水量 
  13.沿線火災防止上の注意事項
  14.罐圧自由保持と其の目的
  15.灰箱風戸の取扱
  16.火焔の色と温度
  17.投炭の時機と其の順序
  18.等間隔焚火法
  19.練炭焚火上の注意
  20.火床を薄くし過ぎた場合の焚火法
  21.火床粘結防止と処置
 
 
 これらの内容には、ライブスチームの運転にもそのまま当てはまるものがあるように思われる。たとえば、「4.送風器の取扱方」には次のような記述。
 
 
 必要以上に送風器を使用する事は、啻に蒸気を無駄に使う許りでなく……、折角高価な石炭を燃焼せしめて作り上げた生蒸気を其の儘に煙突から噴出せしめるのであるから出来る丈使用しない事が望ましい。
 
 
 この点は「運転説明書」にも、通風器蒸気止弁の取扱について、「バルブを開け過ぎると、蒸気のむだな使用となりボイラー圧力は低下します」とある。しかし、「高価な石炭を燃焼せしめて作り上げた生蒸気を……」という切迫感がないのは、趣味の世界ならでは。
 
 また、「17.投炭の時機と其の順序」には次のような記述。
 
 
 投炭時機の観察は、焚火作業中最も肝要なるものにして……、機関車の蒸気使用量を予知し、次に来るべき運転状態の変化即ち逆転機の位置及加減弁の開閉等を考慮し……、罐圧力計指針が降下し始める前に投炭するが肝要である。
 
 
 火力が落ちる前に先を予測して石炭を入れる、火力が落ち始めてからでは遅い。先般の走行テストの際に経験者の方たちから言われたことだ。「運転説明書」には、「石炭は適量適時補給を行い、火室内の燃焼状態が常に一定になるようにしてください」とある。どうしたらそのようにできるのかが難しいところ。
 
 じっくり読めば、ライブスチームの運転にとって大いに参考になる内容がまだまだありそうだ。しかし、残念ながら、今回は精読するだけの時間的余裕がなかった。これ以外にも、鉄道運転会『機関助士用蒸気機関車教範』(通文閣、昭和18年)鉄道運転会『焚火及給油法』(通文閣、昭和18年)など、類似の文献がいくつかヒットした。
 
 もちろん機関士のための文献もないわけではない。しかし、目下の興味と関心から、もっぱら機関助士の文献に目が留まってしまう。次の機会には、複写依頼も含めて、納得のいく成果を得たいものだ。千代田区永田町の国立国会図書館は、その名称のイメージとは裏腹に、利用の仕方によってはとても楽しいところなので〜す。