〔ロストワックス磨き〕
 
 
 ロウ(wax)で型を作り、加熱、消失させて(lost)金属湯を注ぐ、というロストワックス鋳造法は、砂型の鋳物に比べて、寸法精度や表面品質も高く、しかも機械加工の困難な複雑な形状や固い材質に重宝される。後で成形したり、組み合わせたりしなくても、いきなり必要な形状の鋳物が出来上がるわけである。ライブスチームのロッドやバルブギヤにはもってこいの鋳造法なのだ。しかし、組立説明書に従って、このロストワックス製のロッドの一部にヤスリをかけてみたが、これが大変な作業であることはすぐに分かった。第3の試練
 
 
 (1)材質が固い。どうやらステンレス合金らしい。ドリルに取り付ける回転式のヤスリも使用したが、むしろヤスリの方が摩耗する。鉄用では歯が立たない。ダイヤモンド入りの硬質用ヤスリもないわけではないが……。(2)ロッドは平面ばかりではない。丸いところもあれば、引っ込んだ溝もあり、また、細かい油壺の突起も成形されている。これらの表面を満遍なくヤスリ掛けすることは、私の技量と根気ではほとんど不可能。(3)ヤスリ掛けをあきらめるとすれば、それに代わる妙案は……。液体の薬品でピカピカに、というのが理想的なんだけど……。
 
 
 ヒントは意外なところから。非常勤講師のアルバイト先で休憩時間のこと。物理学の先生と雑談をしていた。「昔は、実験装置の組み立てで、金属板のサビを除くのに苦労しました」「どんなふうにするのですか」「リン酸です。P2O5。一晩つけてブラシでこすりました」。おおっ、これは使えるかもしれない。後日、行きつけの日曜大工店をのぞくと、ありました、除錆材。成分は伺った通り、リン酸P2O5。正確には「P2O5として9.75%」。界面活性剤も入っているらしい。110gのボトル1本330円。『広辞苑』の「リン酸」の項目を見ると、「金属表面処理・染色・医薬などに用いる」とある。挑戦してみる価値はありそうだ。
 
 

 使用法には「サビた部分にぬり5〜15分放置した後、拭き取って下さい」とある。とりあえずクロスヘッドの裏側に塗って様子を見た。所定の時間後、ウエスで拭き取ったが変化なし。ガクッ。もう1つの使用法、「5〜6倍に薄めた液に30〜60分漬けてからブラシでこすって下さい」。物理学の先生も一晩漬けたとおっしゃっていた。できるだけ小さい部品ということで、合成テコとクロスヘッドをつなぐ結リンクの1つを液に漬け込んでみた。翌朝、見た目にはほとんど変化なし。しかし、ワイヤブラシでこすると金属固有の輝きが。やったあ、何とかなりそうだ。
 
 
 
 
 


 容器の大きさに合わせて、除錆材をさらにもう1本購入。ボトル2本の原液を入れ、各部品がひたひたになる程度まで水を加える。これは長物のロストワックス部品。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 こちらは小物のロストワックス部品。最初、細かい気泡が出るので、ちょっと心配になるが、でも大丈夫。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 適当に一晩から一昼夜漬け込んだのち、屋外の流しでワイヤブラシ掛け。ドリルに取り付けるカップタイプを使用。材質が固いので、鋼鉄線ブラシでも大丈夫。除錆材の使用上の注意には「皮膚についた時には速やかに水で十分洗い流して下さい」とある。ゴム手袋は必須かもしれない。物理学の先生もそうおっしゃっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 主連棒。下がブラシを掛ける前。上がブラシを掛けた後。違いは歴然。濃いネズミ色だったロストワックスに金属固有の輝き。ただし、この輝きは、しばらく放っておくと若干くすんでしまう。ワイヤブラシで磨いた後、十分に水気を除いてから、酸化防止の気休めにCRC5-56を吹きました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 輝きを得た各種バルブギヤ。上段左から、合成テコ、心向棒、釣リンク腕。中段左から、結リンク、加減リンク、加減リンク軸、釣リンク。下段左から、偏心棒、返クランク。かくして、第3の試練は克服されたのでした。ふう〜っ、やれやれ。さあ、いよいよ取付だ。