〔JBBF講習内容 ―課題レポートより―〕


 バイオメカニズム ―随意最大筋力を決める要因―

  随意最大筋力を決める要因は3つある。1番目の要因は「筋断面積」である。筋断面積の大きい方が最大筋力も大きい。競技選手と一般人を比較すると、単位断面積当たりの筋力にはあまり差がなく、およそ5kg/cm2である。筋断面積の増加、つまり筋の肥大は、筋繊維の数もわずかに増えると思われるが、通常の場合、筋繊維と結合組織の肥大によってもたらされる。
  
  2番目の要因は「神経的要因」である。筋力の発揮は神経系によって抑制され、生理学的な最大筋力の発生による様々な障害や故障を防いでいる。複数の筋繊維が1本の神経繊維によってまとめられて1つの「運動単位」を構成するが、どれだけの運動単位が活性化するかによって、発揮される筋力の大きさが決まる。たとえば、いま仮にAの運動単位に3本の筋繊維、Bの運動単位に4本の筋繊維が含まれているとすれば、Aの運動単位だけで3の筋力、Bの運動単位だけで4の筋力、AとBの運動単位が同時に活性化すると7の筋力が発揮される、という具合である。
 
 このようにして、随意による心理的な最大筋力は、通常、生理学的な最大筋力のおよそ70%前後に抑えられている。したがって、この心理的な抑制を解除することによって、より大きな筋力が発揮されることになる。電気刺激を加えたり、あるいは興奮剤、覚醒剤などの薬物を用いることによっても抑制のレベルは低減するが、訓練によって100%近い筋力の発揮が可能になることもある。気合いやシャウトによって神経が刺激されて随意最大筋力が増すことはよく知られている。
 
 3番目の要因は「筋繊維組成」である。筋繊維には、大きく分けて、速く強く働くが疲労しやすい「速筋繊維」と、遅く弱く働くが疲労しにくい「遅筋繊維」(タイプT)とがある。前者の速筋繊維には、より詳しく見ると、さらに、代表的な2種類の筋繊維があり、より強く働くがより疲労しやすいもの(タイプUb)と中程度の強さで働き疲労しにくいもの(タイプUa)が知られている。どのタイプの筋繊維の割合がより高いかによって最大筋力が決まってくる。
 
 このような筋繊維組成の割合は遺伝的に決定されているが、持久的なトレーニングによって、速筋繊維よりも遅筋繊維の割合が増し、筋力トレーニングによって、速筋繊維のタイプUbよりもタイプUaの割合が増すことなどが確認されている。しかし、生まれつき遅筋繊維の割合が高い場合には、速筋繊維の割合がより高くなることはない。
 
 随意最大筋力は、基本的には、1番目の筋断面積の大きさによってほぼ決まると見てよい。より詳細に見た場合、2番目、3番目の要因も指摘できるという程度である。
 
 
 
 
 レジスタンストレーニングの理論 ―中高齢者がレジスタンストレーニングを行うことのメリット、およびトレーニング実施上の留意点―
 
 少数の壮年人口が多数の高齢者を支えなければならないという、世代間人口比のアンバランスによって、近い将来、高齢者に対する社会福祉制度や年金制度、各種保険制度の破綻が懸念されるところである。介護制度の充実もさることながら、それに先立って、介護を必要とする高齢者の数を減らすこと、また、たとえ介護が必要となるにしても、介護の必要な期間を短縮すること、がまず先決であろう。
 
  加齢とともに、とくに膝伸筋(大腿四頭筋)と体幹の筋肉(いわゆる腹筋や背筋)の萎縮が顕著になる。これらの筋肉の機能低下によって、姿勢の維持が困難になって転倒しやすくなったり、まったく自立できない「寝たきり」の状態になったりする。また、速筋繊維から萎縮、壊死脱落するので、すばやい運動が困難になり、エキセントリックな運動にも支障が生じるようになる。さらに、骨密度の低下にともなって骨折しやすくなる。これらの筋骨格系の能力を維持増進することによって、介護を必要とする状態に陥らないようにすること、この点に中高齢者のレジスタンストレーニングの大きなメリットがある。
 
  しかし、中高齢者のトレーニングには相応の配慮が必要である。とりわけ、過度の負荷がかからないようにすることが重要である。(1)適切な重量のウエイトを選択することは言うまでもないが、筋肉には関節を介して力が作用しており、ウエイト自体の重量が大きくない場合でも、「テコの原理」によって実際には大きな負荷がかかっていることを忘れてはいけない。(2)筋肉に及ぼされる力の大きさ(F)は、ウエイトの質量(m)だけでなく、その加速度(α)によっても左右される(F=mα)したがって、軽い負荷でも、加速度の大きな動作でバリスティックに行えば瞬間的に大きな力が加わり、予想以上の大きな負荷がかかることになる。ウエイトの急加速、急減速が起こらないようにとくに注意する必要がある。(3)ウエイトを動かす軌跡によっても負荷のかかり方が違ってくるので、いっそう正確な挙動が要求される。
 
 また、エキセントリックな動作では、この動作に特有な筋の損傷が生じる。これがいわゆる筋肉痛(遅発性筋痛)の原因であり、一時的に筋力は低下するが、損傷した筋が再生する際に筋肥大がもたらされる。しかし、中高齢者の場合、筋繊維の活性が比較的弱く、壊れた筋が再生しにくいので、とくにエキセントリックな動作を避けるようにする必要がある。
 
 これらの諸点に留意したレジスタンストレーニングによって、中高齢者の筋骨格系の能力を維持増進することは、高齢化社会を目前にした目下の急務といえよう。