〔転轍装置の取付〕

さて、どうするかな

 さて、どうするかな。思い付く方法を挙げてみよう。(1)HOゲージのように電磁石を利用してスイッチで動かす。(2)ケーブルを延長して押し引きする。(3)リンク機構でメカニカルに動かす。(4)転轍係員を配置して指示を出す。(1)は屋外の庭園鉄道向けではない。電気と雨は相性が悪い。(4)夏の孫運転会はこれだった。ただ、いつも娘がいるわけではない。(2)ケーブルを使うと簡単に実現しそうだが、蒸気機関車好きは、やはり(4)のリンクとロッドでしょう。機能だけでなく見た目もこだわりたい。

 トングレール・レバーの先端にはM6のネジ穴がある。レバーの後端に押しバネが埋め込まれていて、このバネ力でトングレールが密着する。これらはそのまま生かしたい。取り外してトングレールの横棒だけにする方がより本物に近いが、それは別の機会に考えたい。

  

 いくつかのリンク機構を考えて図面を描いてみた。この段階でかなりの手間と時間がかかった。できるだけシンプルなものがいい。厚紙で実物大の試作を作成【上画像】。Lリンクの端を動かすとトングレール・レバーが動く。これがなかなか面白い。「正位」「反位」を喚呼しながらしばらく遊んだ(笑)。

 実際のポイントで問題ないか確認するため、厚紙で床板を作り、Lリンクとロッドを取り付けて動きを観察【下画像】。道床やレール、枕木との干渉に注意が必要だが、クリアできそうだ。よし、これでいこう。


 加工に際して考える課題がある。トングレール・レバーとロッド、Lリンクとロッドのジョイント部分はそれぞれネジで固定する。しかし、しっかり固定してもスムーズに動く、という二律背反をどう解決したらいいのか。二重のパイプが決め手だろう。ボルトを通した内パイプでしっかり固定し、このパイプにはめたロッドを外パイプで安定させる。つまり、(内パイプの長さ)=(外パイプの長さ)+(ロッドの厚み)+α。α=0.1mmくらいかな。


 たまたまエンジニアの某知人に相談する機会があった。「鉛筆あるか?」と言ってサラサラと描いたフリーハンドの図面がこれ【上画像】。「パイプを二重にして、下からレバーにボルトを通し、上からナットで固定する」。さすが本職のエンジニアだ。脱帽。私のイメージとも一致。

 さて、必要なパーツは3つ。(1)Lリンクの支点を取り付ける床板、(2)Lリンク、(3)トングレール・レバーとLリンクを結ぶロッド。ロッドの両端にジョイント軸用のリングを付ける。

 最初に、Lリンクの支点を取り付ける床板。厚さ2mmの真鍮板。探していたら出てきた。1mmだと強度が不安。真鍮板とはいえ、2mmはそれなりに糸ノコの引き甲斐がある。
 
 切り出してヤスリ仕上げ。長辺を枕木の中に入れてボルトとナットで固定する。短辺に支点用の8mm穴。
 
 続いて、Lリンクのケガキ。こちらも2mmの真鍮板。
 
 ヤスリ仕上げの後、支点箇所にM6ボルト用のネジ穴。トングレール・レバーの試行作業のつもりで、ここも同じ構造に。しかし、いきなり面倒なことになってしまった。二重構造の外パイプの長さが3mm!ワッシャーでもよかったが、立体的な高さを確保したい。
 
 ボール盤のチャックに3mmはきびしい。10mm外パイプに8mm内パイプを入れ、ネジ止めして加工することにした。まず、下穴を開ける。
 
 内パイプに1.2mmのタップを立てて両者をネジ止め。
 
 外パイプを若干余裕をとって糸ノコでカット。
 
 内パイプをチャックして外パイプを3mmまで削る。
 
 左、外径10mm長さ3.5mmの外パイプ。右、外径8mm、長さ5.6mmの内パイプ。外パイプは3.0mmでなく3.5mmになったが、内パイプが5.6mmなので、機能上問題ない。(内パイプ5.6mm)=(外パイプ3.5mm)+(Lリンク2.0mm)+α。α=0.1mm!
 
 Lリンク支点のパーツが揃った。床板の下からワッシャーを挟んでM6ボルトを通し、床板の穴に内パイプ、これに外パイプをはめてLリンクのネジで固定。最後に上から緩み止めのナットで締める。ネジはしっかり固定し、しかもLリンクはスムーズに動く。正確には、ボルトはLリンクに取り付けているので、動くのは床板!?
 
 Lリンクの支点加工によって、トングレール・レバーの軸加工も何とかなる自信が付いた。次は、ロッドの作成。フォークエンドも考えたが、両端にリングを取り付けることにした。1mm真鍮板にケガキと下穴。
 
 4mm×4mm真鍮角棒にネジ穴を写し開け。1つ写し開けてネジ止めしてから次のネジへ。真鍮板の下に角棒があります。最初の左端のネジ切りでM1.7タップを折ってしまった(涙)。端だったので角棒をカットして再開。集中力の欠如を反省。
 
 内パイプが入る8mm穴。切り出す前に開けておく。
 
 切り出してヤスリ掛け。直線部は組み立て後仕上げる。
 
 M1.7真鍮六角ボルトで角棒に取付。ほお〜、いい感じ!金属加工が楽しくなる瞬間。久々のウフフですね。
 
 さて、ここからが転轍装置作成の一番の難関。厚紙の試作は平面的だったが、奥行き感のある立体的な構造にしたい。Lリンク支点の長さ3mmパイプ加工はその一歩だった。実施の転轍機を見ると、線路下から延び出たロッドは鎌首を持ち上げるように立ち上がっている。これを表現したい。そのためには角棒を曲げ加工しなければならない。そんなにうまく曲げられるのか。

 機関車の補助発電機の排気管を加工したときに、銅パイプを焼きなまししたことがある。こんなに柔らかくなるのかと驚いた。真鍮角棒でもこれができないか。まず固定用のジグ作りから。所定の位置に釘を打ってこれをガイドにする。コールマンのガソリンコンロで角棒を加熱。オール電化の生活はこういうときに困る。IHでは中華鍋も振れない。


えいやー!


2度目のえいやー!


 角棒の形状が整ったところで、次の難関はLリンク側のリングの取付。曲げ加工した角棒は三次元の立体的な形状。これにネジ穴を写し開けるにはどうすればいいのか。う〜む。厚紙の試作から両端のリングの間隔はわかっている。曲げ加工の高さもわかる。これらの間隔と高さを再現すればいいわけだ。

  

 ジグというほどのものでもないが、アルミのLアングルに所定の間隔の穴を開け、すでに取り付けたレバー側のリングを固定する。Lリンク側の高さはパイプをはめて確定する。これでどうだ。軸穴は4mm【上左画像】。これを、所定の長さのパイプで高さを調整したM4ボルトに入れ、アルミアングルに固定する。角棒とリングの高さが一致し、ネジ穴の写し開けが可能になる【上右画像】。

Lリンク側の組立ジグ


ロッド完成!


 Lリンク側ジョイントの組立パーツ。ここは二重パイプにはせず安直な構造。上からM4ボルトをリングに通し、ワッシャを介してLリンクのM4ネジ穴に入れる。遊びの具合を見つつ下から緩み止めナットで締めて固定。リンク機構のジョイントはこれで十分なのだが、ほかの箇所は二重パイプ構造にこだわってみました。
 
 ロッドの角棒に追加加工。動きの角度によって角棒がLリンクに干渉するので、現物合わせて斜めに削り取りました。【白丸部分】
 
 最後にトングレール・レバーのジョイント。上から締めるナットの厚みを薄くする。レール上面から一定程度下げたい。ボルトにナットを2つ入れて削るナットを固定。かのエンジニア氏いわく「ミニ旋盤を買ったらどうですか」。そうですね。でも、ボール盤以外は手作りにこだわりたい。
 
 レバー側ジョイントの組立パーツ。下からM6ボルトを通し、リングの穴に内パイプ、それに外パイプをはめてレバーのネジ穴に下からネジ止めする。最後に上から緩み止めのナットを締める。
 
 ちなみに、レバー側ジョイントの外パイプは、外径10mm、長さ6.9mm、内パイプは、外径8mm、長さ8.0mm。つまり、(内パイプ8.0mm)=(外パイプ6.9mm)+(リング1.0mm)+α。α=0.1mm!これでロッドがスムーズに動くわけです。エンジニア氏、ご助言ありがとう!


組立、取付


ロッドの立ち上がりがいい感じ!


機械的な立体感!


つづく。乞うご期待!