下関市立歴史博物館特別展示
下関の鉄道物語
2019/07/20-09/23
下関市立歴史博物館の学芸員の方から相談がありました。「鉄道の町下関」をテーマにした特別展示を開催するので、関連イベントに協力していただけませんか。ライブスチームの運転会を、ということらしい。市のイベントの運転会はこれまでにも経験があります。(→こちらやこちら)しかし、私が一人で引き受けられる話ではありません。「同好会の方に相談してみます」。返事は一旦保留。
私が所属する地元の「ライブスチーム同好会」の会長さんに相談。「協力は惜しまないが、現地を見ないと何とも言えません」。ごもっとも。てなわけで、後日会長さんと現地視察。レール敷設の可能性がありそうな広い場所は駐車場くらいかなあ。でも、全体が傾斜しているので難しそう。元来、アスファルト舗装は、水溜まりにならないように水勾配があるのが普通。周回レイアウトは無理ですね。直線だけの往復レイアウトにしても、やはり傾斜があるので難しい。
保留していた回答はこうなりました。「お客さんを乗せる運転会は難しいです。ただし、機関車の展示だけなら協力できます」。博物館の特別展示では、鍋島藩や長州藩などの、幕末のライブスチームも展示されます。日本のライブスチームの「原点」と「現在」という点から見ると、展示だけでもそれなりに有意義。それで、パンフレットには「※乗車はできません」の但し書き。
しかし、「動かないのか?」という見学者の声は容易に予想できます。スチームアップして汽笛を鳴らすくらいはしましょう。ちょっとだけレールを敷いて往復もありかな。「動態展示」でどうでしょう。乗車よりむしろスチームアップの過程を見ていただくという趣向です。場所は、博物館の玄関前のスペース。やはり水勾配があって傾斜していますが、運客ではないので気にしません。きれいな玄関前を油で汚しては大変。養生コンパネを準備していただきました。3ヶ月にわたる博物館企画の期間中、全部で6回、「ミニSL展示会」を実施。
下関市立歴史博物館
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設営スペース
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さて、初回の実施当日。スチームアップの途中、若い世代の方たちからは「本当に水と石炭で動くの?」「これが石炭ですか?」などの質問が続出。また、それなりの年齢層の方たちからは、「石炭のにおいが懐かしい」「トンネルに入るとみんなで窓を閉めた」などの体験談やら昔話。案の定「まだ動かないのか」というお叱りも。蒸気機関車は、電車のようにすぐには動きません。気長にお待ちください。
周囲には「その時」を待つ人たち。やがて、安全弁が吹くと「お〜」の歓声。ここぞとばかりに汽笛を鳴らすと、誰からともなく拍手が起きる。(これ、本当です。)あれ、そんなに感動することなの、とも思いつつ、運客だけの運転会にはない一体感に包まれた感じ。
「乗用台車の後ろに乗れますけど……」。乗車はないという約束なので、これはあくまで「動態展示」の一環。レールの長さも10メートル足らず。ちょっと前進して停止、ちょっと後進して停止。それだけ。しかし、これが予想外に好評。鉄道好きの小さい子だけでなく、大人の方たちにも喜ばれました。
わずかこれだけの「動態展示」なのに、どうしてこんなに喜んでいただけるのか。長い線路を周回する運転会もそれなりに面白くて楽しいですが、むしろ感動は、静止状態から動き始める瞬間、状態が変化する瞬間に生じているのではないか。これが私の分析です。レールの長さではないのですよ。
「好評なので、来年もまたやりたい」。企画展が終了した後、学芸員の方からお話がありました。それなりに集客効果もあった模様。「前向きに検討させてください」というのが私の回答。官僚答弁では「やらない」という意味らしいですが、私は「官僚」ではありませんからね。(笑)