〔主桁の製作〕

 たまたま本屋で見つけたのがこれ。小野田滋『橋とトンネル 鉄道探求読本』河出書房新社、2022年。「鉄道構造物に秘められた技術者のこだわり!!」という帯に心惹かれた。橋梁とトンネルが前後半々の内容だが、トンネルの渋さに比べ、橋梁の華やかさが印象的。専門用語も登場するが「教科書ではない」(p.3)と断ってあり、それで十分。


 押さえておきたい用語は「径間」「支間」「橋脚」「橋台」「支承」などだろう。特に「支承」は重要。桁の両端で荷重を支えるだけでなく、水平方向の伸縮や、たわみによる回転にも追随する機能をもつ。鉄道模型でどこまで再現するか、その必要があるか、という点はあるにせよ、勉強だけはしておきたい。

 庭園鉄道では線路面より上に構造物を作るのは厄介である。乗車する人間の座高や幅があるので、クリアランスを大きくとらなければいけない。下路式トラス橋やトンネルは、機関車のスケールに比べて異常に大きくなってしまう。鉄道橋梁といえば、トラスやプレートガータが一般的だが、スケール感にこだわれば、線路面より上に構造物のない上路式に限られることになる。

 『橋とトンネル』の著者によれば、「橋梁に限らず、土木工学は経験工学なので、座学や専門書の知識だけでは限界がある」「とにかくたくさんの実物を見て調べるのが、面倒で遠回りであるが、確実である」(p.21)とのこと。それでは実物の鉄道橋梁を見に行きましょう。


 筋トレジムの行き帰りに目にする可部線の太田川橋梁。これまで間近で観察することはなかったが、庭園鉄道の橋梁建設のために改めて調査した。プレートガータの塗装がくたびれている感じが否めない。C11328が走っていたころのこんな写真がある。→ 「1970.08、上八木―中島」


JR可部線太田川橋梁(2023/05/17)

 確認したい点は主に3点。1点目は、桁のプレート部分と枕木の位置関係。枕木がはみ出しているが、それはどの程度なのか。この点は、庭園鉄道の左右の桁の間隔を決める手がかりの1つになる。確かに枕木はプレート部分からはみ出しているが【画像左】、近づいて見上げると、かなりの長さであることがわかる【画像右】。ふむふむ。

  

 桁の下から見上げてみる。確認したい2点目は、桁とレールの位置関係。レールはI型プレートの真上に載っているのではなく、内側に入っている【画像左】。そのレールのさらに内側に脱線防止ガードがある。これで左右の桁の間隔を決めることができそうだ。プレート桁の内部をのぞいてみた【画像右】。軽量でかつ強度を確保しようという工夫がよくわかる。造形美すら感じる。

  

 振り返って橋台に目を向けると「支承」が見える【画像左】。確認したい3点目がこの支承。鉄橋の自重だけでなく、機関車や貨物の荷重もすべてこの支承で支えているわけだ。アップで見ると、スライドするようにも見える【画像右】。庭園鉄道でどこまで反映できるだろうか。

  

 太田川橋梁の調査はとても有益だった。庭園鉄道の橋梁建設のイメージがより具体的になった。そこでさらにもう1つ。橋梁の上面、つまり線路が敷かれているところをよく見てみたい。子供のころ、線路内を歩くのは日常茶飯事。学生時代、木次線全線を徒歩で踏破したこともあった。出雲坂根駅の駅長さんに昼食をごちそうになった。しかし、いまそんなことをすればただでは済まない。


 線路内への立ち入りはあきらめて車両から観察することに。もちろん先頭車両のかぶりつき席。中央の金網、脱線防止ガード、枕木固定のボルト、ズレ止めのアングルなど、ディテール加工の参考にしよう。さて、以上のことを踏まえつつ、第二期工事は主桁の製作から始めます。



 手元にあるもので工夫する。これが鉄道建設の原則。ジャンクから600mmカラーアングル4本を見つけた。まずこれで主桁を考えよう。橋長1650mm+α、単純桁の上路式。強度のことを考えると、径間を増やして支間を短くするのがいいのかな。
 
[試作1] 2本をT字に組み合わせてみた。強度は問題なさそうだが、並行して連続する長穴の見た目が気になる。太田川橋梁では車両から桁は見えなかった。
 
[試作2] アングルを1本にして、長穴上にレールが載るように左右幅を調整。長穴は気にならなくなってスッキリ。これでよければアングルが半分の本数で済むが、今度は強度が心配。体重をかけてみると、あれれ、大丈夫かな?
 
[試作3] アングルをチャンネル状に組み合わせ。縦方向が2枚になり強度は問題なさそう。乗っても大丈夫。長穴もレールで隠れる。よし、これでいこう。
 
 アングルは、専用のカラーボルトとナットでチャンネル状に組み合わせます。専用ボルトはアングルといっしょにジャンクから出てきた。このカラーアングルの活用はすでに実績があります。こちら→「作業台の作成」「エアーテストレールの作成」 ※リンク先の画像をクリックすると詳しい記録をご覧いただけます。
 
 カラーアングルはM6ネジ専用と思われるものの、強度を考えて左右の桁をM8ネジで結合する。そのためにM8用の穴加工をするが、実はこれが面倒。ヤスリで位置決めして慎重にドリルを立てる。優しくしないとドリルが食い込んで大変なことになる。
 
 M8のネジは1000mmの全ネジから切り出す。ネジ山があって、そのままではまっすぐにカットできない。固定したダブルナットをガイドにする。
 
 とりあえず4本切り出した。
 
 左右の桁を組み立てる。アングル上面の長穴の位置が線路の5インチレールと重なるように。サイドの長穴部分を専用のカラーボルトで固定。
 
 両端の支承部分は、専用のL金具を使用。金具にはM6のネジが切ってあるが、横方向はネジを落としてボルトナットで固定。橋台に載る縦方向はネジ穴を使ってダブルナットでボルトを固定する。
 
 アングルの下面に負荷がかからないようにヤスリがけしてボルトをにげる。荷重はあくまで2枚重ねの縦の面で支える。
 
 支承を取り付けたL=600mmの主桁。アングルを追加購入して、この主桁をもう1つ製作する。
 
 さらにもう1つ、L=450mmの主桁を製作。この3連で橋長1650mmになるが、地面側の橋台部分の形状を考えて、上面だけをα=58mm延長している。これで主桁が一応完成。
 


3連の主桁


3径間単純桁